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福井ひかり法律事務所の弁護士によるコラムです。

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はじめの一歩

2024年03月03日
このたび福井ひかり法律事務所に入所いたしました弁護士の杉本と申します。法曹として仕事を始めるにあたり、裁判上の手続開始が法律上どのように表現されているか調べてみました。
 まずは、民事訴訟手続です。交通事故にあったから損害の賠償を求めたい、家賃を払わない住人がいるから立退きを求めたいといった場合です。民事訴訟法は、この場合の申立を「訴えの提起」といっており、訴状という書面を裁判所に提出して行うこととしています(民事訴訟法134条1項)。
 次に、刑事訴訟手続です。殺人犯や窃盗犯について処罰を求める場合です。刑事訴訟法は、この場合を「公訴の提起」といっており、検察官が起訴状を裁判所に提出して行うものとしています(刑事訴訟法247条、256条1項)。
 ここにいう「公訴」という言葉の由来について、法律学小辞典[第5版]には、「私訴に対する言葉として、公の立場でなされる刑事の訴えを指して、公訴の語が用いられた」とあります。私訴という制度は、現在の日本にはありません。しかし、大正時代に制定された旧刑事訴訟法までは、日本に私訴の制度がありました。ただし、ここにいう私訴とは、犯罪を犯した人の処罰を求めて私人が訴えを起こすという意味ではなく、犯罪被害者が刑事手続において民事上の損害賠償を求めるというものだったようです。旧刑事訴訟法の条文を見ますと、それぞれ「公訴ハ犯罪ヲ証明シ、刑ヲ適用スルコトヲ目的トスルモノニシテ法律ニ定メタル区別ニ従ヒ検事之ヲ行フ」(1条)、「私訴ハ犯罪ニ因リ生シタル損害ノ賠償、贓物ノ返還ヲ目的トスルモノニシテ民法ニ従ヒ被害者ニ属ス」(2条)とそれぞれあります。
他方で、諸外国を見ますと、私人に刑事訴追の権限を認めている国もあります。イギリスがその代表例でしょう。もっとも、私人が完全な訴追権を認めているわけではなく、検察官が召喚状の発せられた事件について、当該訴訟を引継ぎ、打切ることもできるようです(小山雅亀「イギリスにおける私人訴追の制限?」西南学院大学法学論集53巻2・3号140頁)。
以上、簡単に見てきましたが、一口に訴訟手続の開始といっても、事件の種類、時代、地域によって、「誰が」「どのように」行うのかは様々であることに驚かされます。引き続き、訴訟手続についても学んでいきたいと思っています。