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福井ひかり法律事務所の弁護士によるコラムです。

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世界インフレの謎

2023年01月30日
 そろそろ一巡したとの声もありますが、昨年(2022年)は、世界だけでなく日本でも、食料品や電気料金などの値上げのニュースをよく耳にしました。
 
思えば、この2,30年、日本経済はデフレであると言われ、体感でも身の回りの品々が値上がりしたといったことはなく、物価も賃金も横ばいか少し下がる程度というのが実感でした。モノの値段が上がっていくインフレなどというものは歴史上の話で、今後はもう起こらないものであるといった感覚さえありました。
そうしたところ、2022年頃から言われるようになった世界的なインフレは、一人の生活者である私にとっても、その原因や、今後どうなっていくのかということが謎でした。
 
 最近読んだ『世界インフレの謎』(渡辺努・著) (講談社現代新書)という本は、これらの点について新たな視座を与えてくれました。
 同書によると、あくまでも仮説の一つであるという留保付きであるものの、最近の世界的なインフレの原因は、新型コロナのパンデミック後の労働供給の減少、平たく言うと、新型コロナで離職した労働者が職場に戻らなくなり、働き手が減ったことによって、モノやサービスの供給量が減ったことにあるというのです。そして、この傾向は、パンデミックが収束しても大きな変化はないだろうという見立てから、インフレはしばらく続くだろうというのです。
同書によれば、「ロシアのウクライナ侵攻とそれに伴う経済制裁によって天然資源の供給が減ったことがインフレの原因」といった一見分かりやすい説明は、客観的なデータと整合せず、世界的なインフレの真の原因ではないということです。
 
海外はそうかもしれないが、日本では新型コロナで離職が増えたとしても海外と同じようにはならないのではないか、という疑問が湧くところです。
これに対し、同書は、インフレだ物価高騰だといったニュースを聞いた人々が、今後物価は上がっていくという予想、すなわち「インフレ予想」を持ったとき、日本も例外ではなく、実際に物価は上がるだろうという見通しを述べています。
 
これは、今後日本に起こることとして、十分にありうる事態だと思います。
つまり、今までの日本では物価が上がらないことが当たり前であったため、少し物価が上がったらもうその店では買わない、といった行動を取っていたのに対し、みんなが物価が上がるという予想を持っている場合、物価が上がることを当然として受け入れるため、これまでのように他の店で買う(企業から見ると客が逃げる)といったことは少なくなると思います。そうすると、値上げに慎重だった企業も、他の企業に追随して値上げをしていくという事態が発生することも十分に考えられます。
 
物価が上がる理由は分かったけど、物価が上がるのに賃金が上がらなかったら困る、どうすれば日本の賃金は上がるのか、という疑問はみんなが持つところです。
これについての説明は、同書をご参照いただくこととして、本稿を終えたいと思います。
以上