コラム

福井ひかり法律事務所の弁護士によるコラムです。

コラム一覧

ペイ・フォワード

私は,司法修習生時代,福井市内にある北川法律事務所において北川恒久弁護士と内上和博弁護士に御指導いただき,司法修習終了後の2010年12月,そのまま北川法律事務所に採用いただき,北川先生,内上先生の下で弁護士としての職業人生をスタートしました。

2021年6月現在,それから10年が過ぎましたが,この節目のタイミングで,司法修習生を一人受け持つことになりました。司法修習生の指導を担当することを,私たち法曹(弁護士+判事+検事)の世界では「修習生を受け持つ」といいます。
 
司法修習生(以下,単に「修習生」といいます。)とは,司法試験に合格した後に,弁護士や判事(裁判官)や検事(検察官)になる前の実務研修を受ける人です。裁判所(民事と刑事の両方),検察庁,弁護士事務所にそれぞれ数か月間ずつ配属され,指導担当者(裁判官,検察官,弁護士)の指導を受けます。身分は国家公務員であり,修習給付金という給与の支払を受けます。
 
裁判所や検察庁での実務修習では,修習生の数名のグループごとに裁判官や検察官である指導担当官が一人指定される一方で,修習生は,他の裁判官や検察官からも指導を受ける機会が多くあります。つまり,多数対多数の関係です。

他方,弁護士事務所での実務修習では,修習生一人に対して一人の指導担当弁護士が指定され,修習生は,当該指導担当弁護士の事務所で,指導担当弁護士と一対一の関係で指導を受けます。もちろん,指導担当弁護士の方針によっては,その事務所の他の所属弁護士からも指導を受けることもできます。
 
このように,修習生にとっては,就職先の事務所の弁護士よりも先に,指導担当弁護士から一対一の関係の中でじっくりと指導を受けることになります。ですから,修習生がどのような指導担当弁護士からどのような指導を受けるかは,修習生の弁護士人生に絶大な影響を与えます。
 
私は,北川先生と内上先生という素晴らしい先生から,知識や技術はもちろんのこと,弁護士の使命,正義感,倫理観,社会的責任,「実務経験を10年積むまでは半人前である」「法令・裁判例及び事実関係を徹底的に調査検討する」「あらかじめ依頼者に予想される見通しを具体的に伝える」といったプロフェッショナルとしての仕事に対する姿勢や厳しさを教えていただきました。

また,弁護士がいざというときに基本的人権の擁護と社会正義の実現のために一致団結して活動するためには,「こんなことが許されてたまるか」という同じ思いの下でともに力を併せることができるだけの同一職業意識が必要だということも教えていただきました。

加えて,私自身,弁護士という職業集団が市民に対してより良いリーガルサービスを提供していくためには,研究の世界と同じように,経験豊かな先輩から新進の後輩に対して,絶えずその時点の到達点を承継し続けなければならないと思っています。

この度,私は,先輩から引き継いだものを後輩に引き継ぐ立場になりました。

弁護士という職業が,基本的人権の擁護や社会正義の実現という使命を将来にわたって果たしていけるよう,北川先生と内上先生に対する恩返しの意味も込めて,私が北川先生や内上先生その他多くの先輩弁護士から教えていただいたこと,育てていただいたこと,よくして頂いたことを,私も司法修習生やアソシエイト弁護士に対してペイ・フォワード(恩送り)していきたいと思います。